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熊野速玉大社(Kumanohayatama Taisya)
過去を浄化し希望を結ぶ、世界遺産・熊野三山の「新宮」を徹底解説
和歌山県南東部、熊野川の河口近くに鎮座する熊野速玉大社は、熊野本宮大社、熊野那智大社と共に「熊野三山」を構成する神社であり、ユネスコ世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の重要な構成資産です。
この神社は、熊野の神々が最初に降臨した聖地(神倉神社)に対し、新しい宮として建てられたことから「新宮(しんぐう)」と呼ばれ、それが現在の新宮市の地名の由来となっています。 背景の深い緑の山々と、境内に並ぶ鮮やかな朱塗りの社殿のコントラストは美しく、訪れる人々に強い生命力を感じさせます。「過去の罪を浄め、新しい自分に生まれ変わる」という「蘇りの聖地」として、古来より皇族から庶民まで多くの参拝者を受け入れてきました。
歴史と由緒 (History and Origins)
熊野速玉大社の歴史は、神話の時代に遡ります。 伝承によると、熊野の神々は最初に、現在の社殿から南へ約1km離れた場所にある神倉山(かみくらやま)のゴトビキ岩に降臨されました。その後、第12代景行天皇の時代(約1900年前)に、現在の場所に新しい社殿を造営して神々を遷(うつ)したとされています。
このため、元の降臨地である神倉神社を「元宮(もとみや)」、現在の熊野速玉大社を「新宮」と呼びます。 平安時代以降、上皇や貴族による「熊野御幸(くまのごこう)」が盛んになると、熊野三山巡礼の重要な拠点として栄えました。仏教との習合(神仏習合)が進んだ時代には、阿弥陀如来や薬師如来が姿を変えて現れた神(権現)として信仰され、「前世の罪を浄める」場所として位置づけられました。
祀られている神様(祭神) (Enshrined Deities – Saijin)
熊野速玉大社では、以下の二柱を主祭神とし、合わせて十二柱の神々(熊野十二所権現)をお祀りしています。
- 熊野速玉大神(クマノハヤタマノオオカミ)
- 神格: 穢れを祓い、生命力を与える神。神話の「伊邪那岐命(イザナギノミコト)」と同一視されます。「ハヤタマ」の名は、水の動きの速さや、穢れを速やかに祓う霊力を象徴すると言われています。また、薬師如来の垂迹(すいじゃく)とされ、過去世の救済を司ると考えられてきました。
- 熊野夫須美大神(クマノフスミノオオカミ)
- 神格: 万物を生み育む神、結びの神。神話の「伊邪那美命(イザナミノミコト)」と同一視されます。「フスミ」は「結び(産霊)」に通じ、現世の利益や縁結びを司ります。
【主なご利益】 現世安穏、災厄消除、家内安全に加え、特に有名なのが「縁結び」のご利益です。また、熊野三山全体として「諸願成就」(あらゆる願いを聞き届ける懐の深さ)が特徴です。
言い伝えと伝説 (Legends and Folklore)
「平重盛と御神木・梛(ナギ)の木」 境内には、国の天然記念物に指定されている推定樹齢1000年の梛(ナギ)の大樹があります。これは、平清盛の嫡男・平重盛が手植えしたと伝えられています。 梛の葉は縦に強い繊維があり、引っ張っても簡単には切れないことから、「縁が切れない」「夫婦円満」「家内安全」の象徴とされてきました。また、鏡の裏に梛の葉を入れると災難除けになるという言い伝えもあり、古くからお守りとして珍重されています。
「世界平和を祈るナギ人形」 この梛の種を使って作られた「ナギ人形」は、夫婦円満や縁結びのお守りとして授与されており、神社の名物の一つとなっています。
見どころと境内案内 (Highlights and Precinct Guide)
- 朱塗りの社殿群
- 拝殿や神門など、境内の主要な建物は鮮やかな朱色(丹塗り)で統一されており、背後の権現山(ごんげんやま)の緑とのコントラストが圧巻です。
- 御神木・梛(ナギ)の木
- 拝殿に向かう参道の右手にそびえる巨木。日本最大の梛の木とされ、幹回りは約6メートルにも及びます。見上げるほどの生命力は必見です。
- 熊野神宝館
- 境内に併設された宝物館。足利義満をはじめとする室町将軍家や皇族から奉納された、国宝を含む約1,200点の古神宝類が収蔵されています(拝観は有料)。
- 神倉神社(かみくらじんじゃ / 摂社)
- 速玉大社から徒歩約15分の場所にある「元宮」。源頼朝が寄進したとされる538段の急峻な石段を登りきると、御神体である巨大な岩「ゴトビキ岩」が鎮座しています。ここからの新宮市街と太平洋の眺望は絶景で、速玉大社参拝とセットで訪れるべき最重要スポットです。
アクセス情報 (Access Information)
住所: 〒647-0081 和歌山県新宮市新宮1
公共交通機関:
- JR紀勢本線(きのくに線)「新宮駅」 下車。
- 駅から徒歩で約15〜20分。
- 駅前から熊野御坊南海バスに乗車し約5分。「権現前(ごんげんまえ)」バス停下車、徒歩すぐ。
車でのアクセス:
- 阪和自動車道「南紀田辺IC」から国道42号線を南下(約2時間半〜3時間)。
- 那智勝浦新宮道路「新宮南IC」より約10分。
- 三重県側からは、**熊野尾鷲道路「熊野大泊IC」より国道42号線経由で約40分。
駐車場:
- 無料駐車場あり。 河川敷などに参拝者用の駐車場が完備されています。
周辺の観光・食事処 (Nearby Attractions and Dining)
新宮市は歴史と食の魅力にあふれた街です。
- 神倉神社(かみくらじんじゃ)
- 前述の通り、熊野速玉大社の元宮。ゴトビキ岩の迫力と石段の険しさは、熊野信仰の原点を感じさせます。毎年2月6日に行われる火祭り「御燈祭(おとうまつり)」は勇壮で有名です。
- 新宮城跡(丹鶴城公園)
- 熊野川沿いの高台にある城跡。春は桜の名所として知られ、熊野川と街並みを一望できます。
- 浮島の森(うきじまのもり)
- 市街地にあるにもかかわらず、沼に浮かぶ約5,000平方メートルの島全体が特殊な植物群落となっている国の天然記念物。「上田秋成の『雨月物語』」の舞台としても知られています。
- 郷土料理:めはり寿司・さんま寿司
- 新宮周辺の郷土料理といえば、高菜の浅漬けで大きなご飯を包んだ「めはり寿司」(目を張るほど口を大きく開けて食べることから命名)や、熊野灘で獲れたサンマを姿のまま使った「さんま寿司」が絶品です。駅周辺や神社近くの食堂で味わえます。


