本文

岩本山 常泉寺(Iwamotosan)(jousenji)

埼玉県秩父市山田の静かな山裾に佇む「岩本山 常泉寺(いわもとさん じょうせんじ)」は、秩父三十四観音霊場の第3番札所として知られる曹洞宗の寺院です。

豊かな緑に囲まれた境内は、一歩足を踏み入れると、どこか懐かしく凛とした空気が漂います。寺名の由来となった弘法大師ゆかりの井戸や、子宝・安産のご利益で知られる「子持石」など、歴史と信仰が息づく見どころが満載です。また、人気の青春アニメの舞台(聖地)として描かれたことでも知られ、伝統的な巡礼者から若い観光客まで、幅広い人々が心穏やかな時間を求めて訪れる名刹です。

歴史と由来 (History and Origins)

常泉寺の開創についての正確な年代は定かではありませんが、一説には鎌倉時代の文暦元年(1234年)に十三権現が勧請されたことが始まり、あるいはそれ以前から観音信仰の聖地であったと伝えられています。

当初は現在地よりもさらに山深い「岩本山」の山腹にお堂がありましたが、江戸時代の宝永年間(1704年〜1711年)に、巡礼者が参拝しやすい現在のふもとの地へと移されました。

江戸時代には秩父札所巡礼の爆発的なブームに伴い、多くの参拝客で賑わいましたが、明治31年(1898年)の火災によって本堂をはじめとする多くの堂宇を焼失してしまいます。しかし、地域の人々の篤い信仰心によって見事に復興を遂げ、現在の本堂は明治時代後期に再建され、今へとその姿を伝えています。

教え (Teachings of the Ritsu Sect)

常泉寺は、福井県の永平寺と横浜市の總持寺を両大本山とする曹洞宗(そうとうしゅう)に属しています。曹洞宗は鎌倉時代に道元禅師によって日本に開かれた禅宗で、何かを得るためではなく、ただひたすらに坐禅を組む「只管打坐(しかんたざ)」を根本としています。また、日常生活のあらゆる営み(食事や掃除など)もすべて修行であるとする教えを大切にしています。

本尊として安置されているのは「聖観世音菩薩(しょうかんぜおんぼさつ)」です。混じりけのない純粋な慈悲の心を持ち、人々が苦難に直面した際、その声(音)を観じて瞬時に救いの手を差し伸べてくれる仏様として、古くから現世利益を願う人々に深く信仰されてきました。

言い伝えと伝説 (Legends and Folklore)

「常泉寺」という美しい寺名には、平安時代の高僧・弘法大師(空海)にまつわる次のような伝説が残されています。

かつて弘法大師がこの地を巡錫(諸国を旅して教えを広めること)で訪れた際、村の人々がひどい水不足に苦しんでいました。
それを哀れに思った大師が、持っていた杖で地面をこんこんと突いたところ、そこから清らかな水が勢いよく湧き出したといいます。

この泉は、どれほど激しい日照りが続いても決して枯れることがなく、「常に湧き出る泉」であることから、のちに寺名が「常泉寺」と改められました。

この湧き水は「不忘井(わすれずのい / ふぼうのい)」と呼ばれ、この水を飲むと病気が治る、長生きするといった霊水信仰が生まれ、江戸時代の巡礼者たちの喉と心を潤し続けました。

見どころと境内案内 (Highlights and Precinct Guide)

  • 本堂(観音堂) 明治時代に再建されたどっしりとした木造建築です。正面の向拝(ひさし部分)には、鳳凰や龍などの精緻な木彫りが施されており、職人の高い技術を間近で見ることができます。堂内には、素朴ながらも慈愛に満ちた本尊の聖観世音菩薩像が祀られています。

  • 不忘井(ふぼうのい) 伝説に残る弘法大師ゆかりの井戸が、今も境内に大切に保存されています。現在もなお水を湛えており、寺の歴史を見守り続けるシンボルです。

  • 子持石(こもちいし) 境内の一角にある、大きな石に小さく丸い石が寄り添うように重なった不思議な石です。この石を撫でて祈願すると子宝に恵まれ、安産を迎えることができると言われており、特に女性の参拝者から人気を集めています。

  • 【重要】第2番札所「真福寺」の納経について 秩父札所第2番の「真福寺」は山深い場所にあり、現在は無住(住職が常駐していない)のお堂となっています。そのため、第2番真福寺の御朱印(納経)は、ここ第3番常泉寺の納経所にて合わせていただく形になっています。巡礼をされる方は、このルールを覚えておくと非常にスムーズです。

アクセス情報 (Access Information)

住所

〒368-0004 埼玉県秩父市山田1392

公共交通機関

  • 西武鉄道西武秩父線「西武秩父駅」、または秩父鉄道「秩父駅」より、西武観光バス「定峰(さだみね)」行き、または「皆野駅」行きに乗車。「札所三番」バス停、または「学校前」バス停で下車し、徒歩約3〜5分。
  • 徒歩巡礼の場合:
    • 第2番札所「真福寺」から坂道を下って徒歩約40分。第4番札所「金昌寺」へは平地を歩いて徒歩約20〜25分。

車でのアクセス

  • 関越自動車道「花園IC」から国道140号線、および皆野寄居有料道路を経由し、秩父市内方面へ。「山田交差点」を過ぎて約40分。

駐車場:

  • 境内前に参拝者専用の無料駐車場(普通車約10台分)があります。

周辺の観光・食事処 (Nearby Attractions and Dining)

  • 秩父札所第2番 大棚山 真福寺 常泉寺の本寺にあたり、御朱印の授与元でもある札所です。山深い高台にあり、静寂に包まれた「これぞ霊場」という雰囲気を味わえます。常泉寺とセットでの参拝が基本となります。

  • 秩父札所第4番 新木山 金昌寺 常泉寺から徒歩や車ですぐの場所にある第4番札所。「子育て観音」として高名で、境内には「慈母観音」をはじめとする1,300体以上もの石仏(羅漢像)が並び、その圧倒的な光景は一見の価値があります。

  • 山田温泉(近隣の温泉旅館・立ち寄り湯) 常泉寺のある山田地区には、古くから知られる山田温泉の源泉があります。日帰り入浴を受け付けている旅館や、近隣の秩父温泉郷の施設に立ち寄り、巡礼の足の疲れを温泉で癒やすルートもおすすめです。

写真