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北海道開拓の村(Hokkaido Kaitakunomura)

時を超える旅へ。明治・大正の北海道に迷い込む「北海道開拓の村」

札幌の中心部からわずか数十分。近代的なビル群が遠ざかり、緑豊かな野幌(のっぽろ)森林公園の一角に足を踏み入れると、そこには現代とは異なる時間が流れています。 「北海道開拓の村」。 ここは、明治から昭和初期にかけて、北海道の荒野を切り拓き、今日の繁栄の礎を築いた人々の暮らしを体感できる野外博物館です。

広大な敷地には、かつて北海道各地に実在した建造物が移築・復元されており、一歩足を踏み入れれば、まるで映画のセットやタイムスリップしたかのような光景が広がります。 夏には馬車鉄道の蹄の音が響き、冬には馬そりが白銀の世界を滑る――。 単なる建物の展示にとどまらず、当時の「空気感」までもが保存されたこの村で、先人たちの息遣いを感じる旅に出かけてみませんか? 歴史ファンはもちろん、フォトジェニックな風景を求める旅人にも強くおすすめしたい、北海道の隠れた名所をご案内します。

 

歴史が息づく、広大な「生きた博物館」

「北海道開拓の村」が開村したのは1983年。

54.2ヘクタール(東京ドーム約11個分)という広大な敷地に、全道各地から集められた52棟もの歴史的建造物が立ち並んでいます。

この施設の最大の特徴は、建物の中に一歩入ると、当時の生活道具や家具がそのまま配置され、時には人形たちが当時の生活を再現している点にあります。

ガラス越しに見る展示品ではなく、「その空間に身を置く」ことができる没入感。

床板の軋む音、囲炉裏の燻された匂い、少し歪んだ手作りガラス越しの風景。五感すべてで歴史を感じることができるのが、この村の醍醐味です。

村内は大きく4つのエリアに分かれており、それぞれ異なる開拓の歴史を物語っています。

賑わいを感じる「市街地群」

エントランスである旧札幌停車場(現在の管理棟)を抜けると広がるのが「市街地群」です。

ここには、新聞社、交番、旅館、商家、写真館などが軒を連ねています。

  • 旧浦河支庁庁舎: パステルカラーの洋風建築が美しく、当時の官庁の威厳を感じさせます。

  • 旧来正旅館: 待合室の柱時計の音や、客室の雰囲気が、旅人たちの物語を想像させます。

  • 旧武井商店酒造部: 日本酒の香りが漂ってきそうな酒造りの現場を見学できます。

石造りやレンガ造り、そして木造の擬洋風建築が混在する街並みは、和洋折衷の文化が急速に入り混じった明治・大正期の北海道ならではの独特な景観美を作り出しています。

 夢の跡、ニシン御殿「漁村群」

市街地を抜けると、かつて北海道の経済を支えた漁業の歴史を伝える「漁村群」が現れます。

ここのハイライトは、なんといっても「旧青山家漁家住宅」です。

いわゆる「ニシン御殿」と呼ばれるこの豪邸は、小樽の祝津から移築されたもの。当時のニシン漁がいかに巨万の富をもたらしたか、その圧倒的なスケールの建築と、精緻な彫刻が施された内装が如実に物語っています。

一方で、漁夫たちが寝起きした「ヤン衆部屋」の質素さとの対比も、歴史のリアルな一面です。

 厳しさと共にある「農村群・山村群」

華やかな市街地や漁村とは対照的に、開拓の厳しさを肌で感じるのが「農村群」と「山村群」です。

ここには、屯田兵屋や開拓農家の家々が点在しています。

厳しい冬の寒さを凌ぐために工夫された炉や、藁で作られた簡素な寝具。

壁一枚隔てた外はマイナス20度の世界。そんな極限環境の中で、大木を切り倒し、畑を耕し、少しずつ大地に根を張っていった人々の不屈の精神に、思わず胸が熱くなるエリアです。

 

馬車鉄道と馬そり:季節を駆ける村のシンボル

広い村内を移動する際、ぜひ利用したいのが「馬車鉄道」(冬期は「馬そり」)です。

 夏の風物詩:馬車鉄道

明治から昭和初期にかけて、札幌の街中を実際に走っていた馬車鉄道を再現しています。

「パカッ、パカッ」というのどかな蹄の音と、車掌さんが引くベルの音に揺られながら眺めるレトロな街並みは格別です。

日本で唯一、恒常的に運行されている馬車鉄道であり、ゆっくりと流れる車窓の景色は、徒歩とはまた違った味わいがあります。

冬の絶景:馬そり

雪深い冬の北海道開拓の村もまた、格別の美しさがあります。

12月から3月の積雪期には、馬車鉄道に代わって「馬そり」が運行されます。

しんしんと雪が降り積もる静寂の中、鈴の音を響かせて進む馬そり。真っ白な雪化粧を施された歴史的建造物は、水墨画のような美しさを湛え、寒さを忘れて見入ってしまうほど幻想的です。

『ゴールデンカムイ』ファン必見の聖地として

近年、北海道開拓の村は、漫画・アニメ『ゴールデンカムイ』のファンの間で「聖地」として熱い注目を集めています。

作中に登場する建物の多くは、この村に実在する建造物がモデルになっていると言われています。

  • 旧山本理髪店: 作中で印象的なシーンに使われた理髪店。

  • 旧札幌勝手口: 杉元たちが訪れた場所のモデルとされる建物。

  • 旧広瀬写真館: レトロなスタジオの雰囲気がそのまま。

ファンにとっては、作中のキャラクターたちが駆け抜けたあの世界に、自分自身が入り込んだような感動を味わえる場所です。

聖地巡礼マップを片手に、作品のシーンと実際の建物を照らし合わせながら散策する来場者の姿も多く見られます。作品を知らなくても楽しめますが、知っていると建物の細部を見る解像度が格段に上がるでしょう。

 

体験プログラムと開拓の味

見るだけでなく、実際に「やってみる」ことで、開拓時代の生活の知恵を学ぶことができます。

伝統遊具づくりとわら細工

旧武井商店酒造部などでは、ボランティアの方々による伝統技術の実演や体験が行われています。

わら細工や竹とんぼ作りなど、昔ながらの手仕事を体験すれば、プラスチック製品にはない温もりを感じることができるでしょう。

開拓の味「食堂」

村内の食堂では、北海道の名物料理を味わうことができます。

定番のジンギスカン定食はもちろん、開拓時代の食事をイメージした「屯田兵定食(豚汁と麦飯など)」や、名物「いももち(じゃがいものお団子)」は、素朴ながらも滋味深い味わいで、散策で冷えた体を温めてくれます。

 

交通アクセス

札幌中心部からは少し離れていますが、公共交通機関でのアクセスは比較的スムーズです。

  • JR新札幌駅 / 地下鉄新さっぽろ駅
    • JR北海道バス 【新22】開拓の村行き 「開拓の村」(終点) 約15分
  • JR札幌駅
    • JR北海道バス 【新22】開拓の村行き 「開拓の村」(終点) 約50分~

※アクセスのポイント

基本的には、地下鉄東西線またはJR千歳線で「新札幌(新さっぽろ)」駅まで行き、そこからバスターミナル(北レーン10番乗り場)発のバスに乗るのが最も本数が多く、スムーズです。

バスは終点の「開拓の村」で降りれば、目の前が入場ゲートです。

 

周辺の観光スポット

開拓の村がある野幌森林公園エリアは、文化と自然が調和したエリアです。

  • 北海道博物館(愛称:森のちゃれんが):開拓の村から徒歩約10〜15分(バス停で1つ隣)。北海道の自然・歴史・文化を総合的に紹介する博物館です。ナウマンゾウの骨格標本から、アイヌ文化、そして現代の北海道までを網羅。「開拓の村」で建物を体感した後に、ここで歴史的背景を深く学ぶと、北海道という土地への理解が飛躍的に深まります。共通入場券がお得です。
  • 野幌(のっぽろ)森林公園:「開拓の村」や「北海道博物館」を包み込む広大な道立自然公園。原生林に近い自然が残されており、エゾリスやキタキツネ、多くの野鳥が生息しています。博物館から開拓の村への移動は、この森の中の遊歩道を歩くのもおすすめです(冬期を除く)。
  • サンピアザ水族館・札幌市青少年科学館:アクセスの拠点となる「新札幌駅」直結の施設。ファミリーで訪れる場合、午前中は開拓の村、午後は水族館や科学館といったプランも組みやすく、一日中楽しむことができます。

 

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