日本の心

川根、大井川、天竜川の茶畑 Japanical ジャパニカル
2026年1月9日 0 Comments

一度は飲みたい「黄金色の雫」。大井川・天竜川流域で出会う、極上の山のお茶

【静岡の秘境】霧が育む「天空の茶園」へ。川根・天竜茶、その香りと味わいの正体とは?

静岡県の中央部、南アルプスを源とする清流・大井川と天竜川。その流れを遡り、深い山あいに足を踏み入れると、息をのむような光景が広がります。

断崖のような急斜面にへばりつくように続く、鮮やかな緑の畝(うね)。眼下には蛇行する川が輝き、朝には乳白色の霧が茶畑を包み込みます。

ここは、「川根本町(かわねほんちょう)」と「浜松市天竜区」。 平地で大量生産されるお茶とは一線を画す、日本最高峰の「山のお茶(山茶)」の産地です。なぜ、これほど険しい場所でお茶が作られるのか。そして、なぜここのお茶は数々の品評会で日本一の栄誉に輝くのか。その秘密は、この過酷とも言える自然環境そのものにありました。

歴史:街道と川が運んだ「銘茶」の誇り

この地域の茶業の歴史は古く、江戸時代にはすでに良質な茶の産地として知られていました。

  • 川根茶(大井川流域): 江戸時代、この地を通る街道を通じてお茶が運ばれ、その品質の高さから幕府への献上品とされることもありました。明治以降も、大井川の舟運や、後の大井川鐵道(SL)の発達とともに「川根茶」の名声は全国へと広がりました。
  • 天竜茶(天竜川流域): 古くから山間地での生活の糧として、換金作物であるお茶が大切に育てられてきました。特に明治時代、海外輸出が盛んになると、天竜川を使って港まで運ばれた歴史があります。
川根、大井川、天竜川の茶畑 Japanical ジャパニカル

両産地に共通するのは、「全国茶品評会」などの権威あるコンテストにおける圧倒的な強さです。長年にわたり産地賞や農林水産大臣賞を数多く受賞し、「量より質」を追求する職人魂が、世代を超えて受け継がれています。

風土:天然のヴェール「川霧」と厳しい寒暖差

川根・天竜のお茶がおいしい理由。それは、お茶の木にとってスパルタでありながら、愛情深い環境があるからです。

1. 天然のカーテン「川霧(かわぎり)」

この地域を語る上で欠かせないのが、川から立ち上る**「霧」**です。霧は強い日差しを遮る「天然の覆い」の役割を果たします。これにより、茶葉の「テアニン(旨み成分)」が渋み成分である「カテキン」に変化するのを穏やかに防ぎ、まろやかな甘みと旨みを蓄えます。

2. 激しい寒暖差

山間部は、昼と夜の気温差が非常に激しい地域です。昼間は光合成で養分を作り、夜は冷え込みによってその養分を葉の中に閉じ込めます。このサイクルが、茶葉に力強いコクを与えます。

3. 急峻な斜面と土壌

「お茶は足音が聞こえる畑で作れ(手入れを怠るな)」と言われますが、ここの畑は足を踏み入れるのも大変な急斜面ばかり。しかし、この斜面こそが水はけを良くし、ミネラル豊富な古い地層の土が、香り高いお茶を育むのです。

川根、大井川、天竜川の茶畑 Japanical ジャパニカル

味と香り:透き通る「黄金色」と「高貴な香り」

普段、スーパーなどで見かける深緑色のお茶(深蒸し茶)に慣れている方は、川根・天竜のお茶を淹れたとき、その色に驚くかもしれません。

  • 水色(すいしょく): 濁りのない、透き通った「山吹色(黄金色)」です。
  • 香り(形状): この地域のお茶の最大の特徴は、「香り」の高さです。平地のお茶が「草のような若々しい香り」だとすれば、山のお茶は「花のような、あるいは果実のような高貴で涼やかな香り」が鼻腔を抜けます。
  • 味わい: ただ甘いだけではありません。口に含んだ瞬間、心地よい渋み苦みが広がり、その直後に濃厚な甘み(旨み)が追いかけてきます。飲んだ後もずっと口の中に清涼感が残る、これを「余韻(よいん)」と呼びます。

こだわり:伝統の「浅蒸し」と針のような茶葉

この地域では、茶葉の形を崩さない「浅蒸し(あさむし)」または「普通蒸し」という製法が主流です。

  • 針のような形状: お茶の葉を蒸す時間を短くすることで、茶葉が細くよれた「針のような美しい形」に仕上がります。これは、茶葉そのものの品質が高く、柔らかいからこそできる製法です。
  • 素材の味を直球で: 長時間蒸して渋みを消す「深蒸し茶」とは異なり、浅蒸しは茶葉本来の味と香りをダイレクトに引き出します。ごまかしのきかない製法だからこそ、生産者の技術と土壌の力が試されるのです。

山のお茶を最高に楽しむヒント

大井川・天竜川流域のお茶は、淹れ方一つで表情をガラリと変える、奥深いお茶です。最後に、この「山のお茶」を自宅で最高に楽しむためのヒントをお伝えします。

  1. 湯温は少し高めでもOK: 玉露のように低温で淹れて旨みを出すのも正解ですが、山のお茶特有の「香り」を楽しみたいなら、70℃〜80℃と少し高めの温度で淹れてみてください。立ち上る湯気とともに、山の霧の中にいるような清々しい香りが部屋中に広がります。
  2. 最後の一滴まで絞りきる: 「ゴールデンドロップ」と呼ばれる最後の一滴に、お茶の旨みが凝縮されています。急須を振らず、ゆっくりと最後の一滴まで注ぎ切ってください。
  3. 茶殻も味わう: 良質な山のお茶は、茶殻まで柔らかく美味しいです。お醤油やポン酢を少したらして、おひたしのように食べてみてください。その新鮮な食感に驚くはずです。

大井川を走るSLの汽笛や、天竜の深い森の静寂に思いを馳せながら。 黄金色の一杯で、心洗われるひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。

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